長編 オロロントライスロン回顧録(RUN編)
〜ファイナルレースにかけたアスリート達〜
By Noriyuki Maeda
2006/8/27

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| 〜RUN編〜 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
更衣室には先客が一人いたが、すぐ出て行き中には自分ひとり「あれ?以外に少ないなあ」この辺だとゆっくりくつろいでいる選手はいないということか。 まあいいか、どっかり座りこんで着がえる事にしよう。 オロロンの強い日差しは、少しずつボディブローのように、自分の体にダメージを与えていたんだ。 ソックスは濡れているので、取り替えてリフレッシュしよう。サプリメント入りのウエストバッグを付けようとした所で、すぐ後ろを走ってきたスギさんが入ってきた。2回のトラブルにもめげず、追い上げてきたのはさすがだ。 「いやー、スギさんペース速いもんだから付いて行くのが大変だったよ。おかげでランの足が残ってないよ。オレは少しゆっくりして行くから先に行っていいよ」と言うと「それじゃ、MAEさん先に行ってますから」とスギさん、あっという間にその場から消えた。トランジッションも早いわ。 そういえばバイクでオシッコを我慢していたんだ。いつもなら150km過ぎの踏み切りで用を足していたのだが、スギさんの後を走っていたので離されてはいけないと思い、ずーっと我慢していた。 更衣室を出てから裏の簡易トイレに駆け込む。「あぁーーー、ようやくスッキリできる」しかし、出始めると止まらないのが世の常。タンク120%状態の膀胱はこれでもか!って言うくらい、不要な液体を対外に排出してくる。 「おーい、いつになったら止まるんだぁ?」長時間バイクに乗って尿道を圧迫していたので、最後の切れも悪かった。 ![]() ふと気がついたが、なんとなく下半身がモコモコした感じがする。そうだ!バイクパンツを脱ぐのを忘れていた。 外に出てから急いで脱ぎ、スタッフにトランジッションバッグに入れてもらうようお願いした。 エイドでスイカにむしゃぶりつき、コーラ2杯を喉に流し込みランコースへ。 道路向かい側で、妻ヒトミが応援して手を振っている。 去年はここで無念のリタイヤだったな。再び回想シーンが。 「今年は違うぞ、ゴールで待ってろよ!」歩道を左折し勢いよく走り出した・・・はずだが「あれ?足が思うように上がらない」やはり熱中症なのか。 足元に近いところを見て走ると目が泳いでいる感じがする、平衡感覚がおかしい。なるべく遠くを見て走ることにした。 「うわー、ちょっとヤバイな」まだ日差しは強く、更に自分の肉体をいじめるだろう。これ以上ひどくなると、倒れてリタイヤという可能性もある。 前の日に、布施パパがアドバイスしていたのを思い出した「熱中症予防には水に濡れたスポンジを、2つくらい首の後ろに挟んで冷やしながら走るのがいい。そうすれば、頚動脈を冷やせるし、直接首に日が当たるのを防ぐ事ができる」 その言葉どおり、エイドで取ったスポンジを首の後ろに挟み、走ることにした。 練習だと5kmくらい走れば足も慣れてくるのだが、足が重く一向にペースが上がらない。キロ7分半くらいだろうか、最初の10kmが止めどもなくなく遠く感じた。 レース前に「絶対に歩かない、遅くてもいいから走る」と誓った。この状況においてもその気持ちは途切れる事はなかった。 しかし、後続ランナーにはボロボロ抜かれた。12〜13kmあたりだろうか、後ろからチームメートのシンちゃんが追いついてきた。 「おーい、マエちゃ〜ん」調子よさそうに、足取りも軽やかに抜いて行った。(その足が欲しい、貸して〜) その身体はどんどん小さくなっていった、今の自分には付いていく余裕など微塵もなかった。 とにかくエイドに着く度に水分を充分取り、首の後ろをスポンジでひたすら冷やす事に専念した。 いつか必ず調子が上がってくる、復活する事を信じ今は辛抱強く、ただひたすら足を前へ前へ動かすのみ。 オロロン名物の坂が連続して襲いかかってくる。上りでも一歩、一歩、気持ちは走る、走る、走る。 しかし、傍から見ている応援者には、歩いているようにしか見えないかもしれない。まずはランの中間地点である初山別を目指す。 15kmを過ぎ初山別が近づいてきた頃、ようやく足が軽くなってきたように思える。頭も少しはっきりしてきた。何となく復活できそうな予感。 ランパート第一の目的地、初山別に着いたぁ、ここでホッと一息。あと半分だ! ランパートの20kmタイムは2時間半弱、エイドの休みが長すぎたのかちょっとかかり過ぎか。ようやく調子も上がってきたこともあり、後半戦に備え、多少かかってもここでガッチリ身体全体を冷やす事にした。何度もスポンジで冷水を浴びる。 ![]() ここまでのトータルタイムは約9時間35分、目標の12時間切りまでの貯金は2時間25分ある、少しペースを上げれば何とかなるぞ。 気分も新たにゴールを目指しスタート。すぐの目の前に激坂が立ちはだかる。 おおー、見違えるように足が回る。今までと違い「前を行く選手を皆抜き返してやるぞ!」という戦闘意欲が湧いてきた。 前半追い抜いていった選手がどんどんペースが落ちてきて一人、また一人を抜き、確実に順位が上がっていく。この時点で順位を意識する余裕も出てきた。何とか2ケタ順位に入りたい。 後半のエイドでは、あまり時間をかけない様にした。しかし、スポンジで首を冷やすことは続けた。 30kmを過ぎると日もだいぶ傾き、暑さもだいぶ和らいできた。 ずーっと先の坂の途中にぽつんと見える人影、どんどん近いてくると何やら見覚えのあるウエア。シンちゃん発見! 歩いていたシンちゃんに声をかけると「太ももがつりそうで走れないんだ」「塩分摂った?」「う〜ん、摂ったんだけどね、マエちゃんは復活したんだ」「何とか復活したよ、それじゃあ先に行くよ」ちょっとしたやり取りのあと、先を急いだ。あと10km弱、ゴールまでもう少しだ。 25kmから30kmまでの5kmは32分22秒、キロ6分半まで上がっている。いい感じだ、30kmを過ぎてからもう少し上がっているはず、次の距離表示でどれくらいか分かるはず。 このままペースを維持し、残り3kmからスパートできればいいな。 ところが想定外の事態発生!残り6km地点でヒロコが追いついてきた。 「えへ〜、マエちゃんに追いついちゃいましたぁ(^。^)」 「なぬ〜!そんなぁ・・・。」 「おまえねえ、来るの早過ぎなんだよ〜、一回後ろに下がんなさい!」そんな言葉は完全に無視され、とっとこ抜いていきやがった。 毎回、彼女には何人の函トラ男子が食われ、涙をのんだことか。このまま行かせるわけには行かない、ここで負けたら立場がない。(お前に立場なんかあるのか?と言われても返す言葉がないのだが・・・(ー_ー)!!) また懇親会の時にヒロコの鼻が、コブシ二つ重ねたくらい高くなる。しかも、ひれ伏して「女王様、お注ぎします」などと言って、ヒロコにお酌しなければいけなくなる。そんなのいやだぁー!! 100mくらい離れてしまったが、何が何でもくらいついて行くことにした。 〜ここで一人作戦会議〜 残り約6kmで追い抜いてもしぶといヒロコのことだ、すぐに追い抜き返される。現時点で無駄な体力は使いたくない。 今年も東京国際、大阪国際でべストタイム更新し、3月の名古屋国際ではついに3時間8分台をたたき出して絶好調のヒロコに対し、洞爺湖マラソンで素で走っても4時間を切るのがやっとのマエちゃんとでは、まともに勝負しては負けるのが見え、見え。 しばらくはこのまま距離をおいて、こそっと悟られないように走り、最後のエイドを過ぎてから一気に距離を詰め、羽幌の町に入ってから、マエちゃん得意のぴったり後ろについてのコバンザメ走法、最終コーナーを曲がって最後の直線に入ったところで一気にまくる。 こんなストーリーで行きましょう(^。^)なんと言われようがいいもん、勝負の世界は厳しいのだ。 〜一人作戦会議終了〜 ・・・てなことで、ひたすらヒロコのケツを追いかけながら走る。かえって丁度良いペースメーカーが出来てよかったかも。 もう一つの効果として、前の選手をかなり抜く事ができた。 築別エイドではヒロコが素早く給水しランコースに戻る。自分も負けじと水一杯とスポンジを取りすぐ走る。 途中、150mくらいに差が開いたので、無理してペースを上げ距離を詰めるが、決して100m以上には詰めない。 最後のエイド(羽幌自動車学校前)まで長く感じた。それもそのはず3.9kmもあったんだ。(あとで分かった) このエイドをすぎればゴールまでは約2km、目と鼻の先だ。しかも下り坂だ、ここで一気に距離を詰めるぞ!ストライドを広げペースアップ。 しかし、まだ悟られてはいけないので、息を荒げないよう、足音もヒタヒタと慎重に。 坂の下に一人選手が見えるが、歩いているようだ、この選手も一気に抜いた。後はヒロコとの一騎打ち。 町に入ると沿道には応援者がびっしり。賑やかになってきた。微かにゴールからの上条ケンのアナウンスも聞こえてくる。 歩道の段差があるので、ヒロコのスピードが少し落ちた。そこで一気にコバンザメ走法。うーん計画通りの展開になってきた。 沿道の声援が飛ぶ「141番頑張って!」・・・あれ?これで俺が後ろについてるってばれたかな?もう、ここまできたらいいか。 ![]() 最終コーナーをそのまま突入、そしてスパー・・・ってあれ、セーフティコーンがあって一人しか走れないじゃん。 ちょと誤算、コース幅が広くなったらラストスパートだ。ヒロコよりタイミングを早くスパートしなければいけない。 だんだん勝負ポイントが近づいてきた。来た来た、行くぞ!とりゃー!! その瞬間のヒロコの声「あ”っ!」 なりふり構わずダーッシュ!腕を振り猛然とゴールに向かってダッシュ。最後のダッシュはいつもトレーニングでシミュレーションをしていたが、まさかレースでヒロコとやるとは思わなかった。 待てよゴール前にヒトミが待っているはず。右側にいるはずだ、ダッシュしながら応援者の中を目で追いながら探す。 あー、いたいた!ここで勝負はついたと思われるのでスピードを緩め、手をつなぎながらゴールアーチに向かって走った。 念願の夫婦揃ってのオロロンゴール、去年無し得なかった事がようやく叶った。喜びをかみ締めなが らゴールテープを二人で切った、両手を高々と上げて。嬉しくて思わず抱きしめた。いままで支えてくれてありがとう! ゴール地点でスタッフ、応援の方たちに脱帽し、深々とお辞儀をして感謝、感謝。 ちょっと間をおいてヒロコもゴール。先にゴールしていたスギさんも駆け寄ってきて、お互いに健闘を称えあう。 この瞬間、すごい喜びと感動と充実感を味わう事ができた。
20年の歴史に幕を閉じたオロロントライアスロン それを支えてきたスタッフ、ボランティア、地元の応援者の方々に改めて感謝します。感動を与えてくれてありがとう! |
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