| 第18回 オロロンライントライアスロン国際大会 挑戦記
244.7kmの冒険 佐藤裕功=文・写真 text&photo=Hironori Satou |
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再 開 「オロロンの開会式でお越しですか?」 「今年も閉会式なんですよ。開会式に出られなくてごめんなさい。」 新千歳空港に降り立った僕は彼女に声をかけた。 彼女の名は、橋本聖子。 彼女は政治家でもあり、北海道トライアスロン連合会長でもあります。日本海オロロントライアスロン国際大会(以下、オロロントライアスロン)式典のため来道したのだ。こんな一年ぶりの再開から始まった今年の大会! 何かが違う。何かが起こる・・・なわけないか。いやいや、昨年のゼッケン210、今年のゼッケン21、今年のホテル部屋番号210は、何かが起こる予感。間違いない!(長井秀和ふう) トライアスロンって? 今年は、アテネオリンピックの開催年。NHKのトライアスロン中継を見た人もいるのでは。トライアスロンは、アメリカ発祥のスポーツ。第一種目スイム(水泳)、第ニ種目バイク(自転車)、第三種目ランからなる三種競技。トライアスロンは三種目の距離が約50kmのものと、200kmの2つのタイプがある。大会によって距離は多少違うが、オロロンや沖縄県宮古島、アイアンマンハワイは、一日かかりの、まさに鉄人レースなのであります。 photo2:増毛港トランジットAM4:00。会場はまだ眠っている。
日本最長の看板 僕の知る限り、北海道には日本最長のものがニつある。一つは国道12号線。29.2kmにおよぶ日本一長い直線道路。そしてもう一つがこのオロロントライアスロン。オロロントライアスロンは、スイム2.0km、バイク200.9km、ラン41.8km、総延長244.7kmの名実共に日本最長のトライアスロンです。北海道は日本海側に位置する増毛町から稚内の隣町、幌延町(ほろのべ)までの九市町村を舞台に開催されるスケールの大きな大会。【増毛「ましけ」と読む。くれぐれも「ぞうもう」とは読まないように。】八月末に開催される、このオロロントライアスロンは、留萌管内の市町村3千人のボランティアによって支えられ、地域の夏の風物詩となっています。今年は、ロシア・サハリンスポーツ委員会から2名の選手、昨年の覇者スミス・スチュワートら三名の外国人選手が参加。国際大会という名にふさわしい顔ぶれが揃った。
長い1日の始まり AM6:30増毛港に響き渡るピストルの音と共に、今年もオロロンの幕が切って落とされた。トップ選手や泳ぎに自信のある選手が先を争って海へ飛び込む。第一種目のスイムは増毛港の特設コース。オーシャンスイムでは、プールにあるコースレーンを区切るロープはありません。あるのは目印となるブイのみ。このためプールでは使わない技術も必要。たとえば目印に向かって泳ぐために水面から顔を出して前方を確認するクロール「ヘッドアップスイム」。アテネオリンピック女子トライアスロンでは、トップを泳ぐタオルミナ選手(アメリカ)が三掻きに一回の割合で前方を確認していたのが記憶に新しい。海面ぎりぎりに目線をおいて、一瞬で前方を確認するためには慣れが必要。あらかじめ陸地の建物が、どのように見えるか公式練習時間にシュミレーションしておくことも必要。陸地から見る景色と海面ぎりぎりから見る風景はかなり違います。慣れないひとは平泳ぎを入れて目標物を確認しましょう。 300名の選手がコースロープの無いところを混泳するため、集団内ではフックをもらったり、蹴られたり、時には速い選手に乗られたりもします。しかし、後方で泳げば安全に泳げるので安心を。そうは言うものの、今年は集団内でスタートしちゃいました。集団がバラケない最初の10分で早くもフックをもらう。「ありゃりゃ」ゴーグルがずれてしまったではないの!立ち泳ぎしている間も、次から次ぎへと選手が押し寄せるので、素早くゴーグル内の水を出して再スタート。例年は、最後尾から海に入るので、こんなことは無いんですが・・・。
ゆっくり泳げば速くなる!? トップ選手が既に陸に上がる頃、僕はまだ1.1kmのブイを折り返している。バイクパートに向けてキックをほとんど打たずに脚を温存しているのでございます。スイムをほとんど練習していないので、無理にキックを打ち脚を使ってしまうと、次のバイクパートで痙攣してしまう可能性があるためです。どんなにバイクやランを得意としても、三種目を上手く繋げなくては、完走も好成績もないのがトライアスロン。遅くても、まずは完泳をめざして慌てずスイムゴールを目指します。 ここ増毛港は、宮古島やアテネの様な美しく澄みきった透明度抜群の海とはいかないが、それでも外海に近い防波堤に近づくと海底が見えてきます。海底の見えるスポットは決まっていて、ここまで来ると残り約500m。スイムゴールまであと少し!
我完泳此無事成 47分44秒。個人の部299人中、263位にてスイム終了。後ろには約30人「遅ぃ〜」 陸に上がったら、計測マットの上を通過。選手の足首には、マラソン大会でお馴染みのチャンピオン・チップが装着されています。500円玉サイズのチップをマット下のセンサーが感知して、オンデマンドに集計が行われる。このシステムとIT技術によって、家族や応援者たちは携帯電話やインターネットを使って、選手のスイムゴール、バイクゴールの通過タイムを知ることができます。先頭と終末の大会車両にはGPSが搭載されていて、こちらもwebやi-modeサイトに位置がアップされる。トップ選手と最終選手の位置を知ることができて現地の応援に便利。ちなみに、携帯サイトはi-modeだけ。これはNTTドコモがスポンサーになっているので御了承を。ドコモ以外の人はGTメールを活用すると、あらかじめ登録したメールアドレスに、チェックポイント通過タイムがリアルタイムに配信されます。 測定マットを通過したら、シャワー区間まで進みウエットスーツを脱ぎながら海塩を洗い流します。ここで塩を流しておかないと、晴れた日にはバイクパートで塩焼けしてしまい、皮膚が極度の炎症を起こすことがあるためです。快適にバイクパートをこなすためにも、ベトつく塩は流しておくほうが懸命。シャワーは「ほくでん」(北海道電力)の提供で温水。スポンサーや大会主催者の心意気に感謝!
急いで、ウエットスーツを脱いだ後は、自分のバイクがある場所「トランジット」へと急ぐ。海外旅行などで飛行機を乗り継ぐことをトランジットと言いますが、トライアスロンでは、種目変更をトランジットと言います。 ここ増毛港トランジットは、次のバイクパートのための種目変更を行う。トップ選手は、着替えの1秒も無駄にせず、すぐさまバイクパートへ移行できるようにトライウェア(トライアスロン専用ウエア)をウエットスーツの中に着ています。このトランジットも、競技時間にカウントされているので記録を狙う人も完走を目指す人にも重要です。 バイクスタートの準備が完了したらバイクをラックから取り出して、バイク乗車位置まで駆け進む。乗車位置までは、決してバイクに跨ってはいけません。このルールは、トランジットエリア内でバイクが交錯する危険性を考慮してのことで、全てのトライアスロンレースで共通です。大勢の応援者の声を胸に増毛港を後にした。 200.9kmのバイクパートが始まった。
風の大地 僕の今年の目標は、オロロン完走だけではありません。バイクパートの6時間切りでございます。オロロンのバイクパートで6時間を切って走る選手は1〜2%にすぎません。昨年11月から今日までのバイク練習距離5000km。(少ない?)三本ローラーでの回転スキルアップ、ロングライドでの持久力トレーニング、総合力をつけるために1500m級の山岳を何度も走った。結果は如何に! バイクパートを6時間未満で走りきるためには、平均時速33.5km以上で走らなければならない。 ここオロロンラインは風が強いことで有名。発電用の巨大風車群があちらこちらに建造されています。力昼(りきびる)は、単一箇所では全国一の風車建造数を誇ります。風車といっても、一基の高さは、60m以上。およそ20階建てのビルに相当。羽根はコンピュータ解析された翼状断面。発電効率を上げるために緻密な計算によって作り出される芸術品。ドンキホーテが怪物と思った風車も、現在では翼の直径が75m以上という超巨大物に成長した。 優雅に回る風車、この翼を回す風はかなり強力。この風は毎年、遠別町(110km)辺りまで追い風となり、選手を後押しします。追い風は、バイクにとってかなりのアドバンテージとなりますが、天塩町(てしお)130km付近からは、風向きが一転。向かい風となり選手を苦しめることが少なくありません。いかに追い風が吹いている間に平均速度を上げられるかが完走・好成績のポイントとなります。追い風を強く受けるところでは、時速40km以上で走ることができ、トップ選手は時速50km近い速度で走っています。緩い登りなら時速30kmが出るくらいです。ちなみに、力昼は苫前町にある地名。この他にも濃昼(ごきびる)という不思議な地名もありますが、クエンティン・タランティーノ監督作品KILL- BILLとは何ら関係無ありません。(おいおい・・・)個人的にはユマ・サーマンは好きですけど。 photo3:苫前町力昼の発電風車。丘の上には数十基の風車がそびえたちます。
どうして速度がわかるの? と思いの人もいるでしょう。自転車には、サイクルコンピューターを搭載していて、時速や走行距離がわかります。サイクルコンピューターは、ペダリング回転数(ケイデンス)、平均時速、走行時間等々多くの機能を持っている。といっても、僕の使うのは、ケイデンスと速度表示くらい。ケイデンスは特に重要で、自動車のタコメーター(回転数計)のようなもの。ケイデンスの基本は90〜110回転と言われています。追い風の時は、どちらかと言うと重めのギヤを踏んでいったほうが、風に乗れるような気がします。軽めのギヤで漕ぐと、脚にはやさしいが、逆に心拍数が上がってしまい苦しいのでございます。実際は、選手の脚質や好みもあるので、実際には90回転を目安に、心地よい回転数になるギヤを選択しています。速度はその結果得られるもので、「速度ありき」ではありません。 四輪最高峰レースF1やニ輪最高峰レース・モトGPに使われる車両にも、スピードメーターは着いていません。一般道では「制限速度」という制約があるため、どうしても速度という物差しで測りがちになりますが・・・。しかし、体で行うスポーツもモータースポーツと同じ。その人の心肺機能や脚質でペダル回転数が決まり、その結果「速度」が決まります。速度ありきで走ると、簡単にバテてしまいます。
丘を越えて 前半60km地点までは、平坦路が多く、追い風も手伝ってアベレージ速度は上々。60km地点過ぎの苫前町(とままえ)から初山別(しょさんべつ)100km地点までは、海岸段丘の緩やかなアップダウンが繰り返されるハードなコースへと様相を変える。丘から丘まで数キロもある牧歌的な日本離れした美しい風景は、車で走れば最高に「気持ちいい。ちょー、気持ちいい!」(by北島康介)ですが、バイクで丘越えをするには、かなり堪えます。この美しい景色は僕らの目を楽しませることはあっても、脚を楽しませてくれることはありません(泣)。 走り始めて約3時間、多くの選手に最初の体力の波がやってくるのもこの頃。このハードな地形で精神的にも落ち込む辛い区間。後方30位でスイムゴールして、6時間切りを目標にハイペースで漕いでいるので、僕を抜いていく選手はほとんどいない。「こんなにハイペースで大丈夫かな?」と疑心暗鬼になります。ここがオロロン最初のハードル。ここで、張りきりすぎて後半潰れるのか?潰れて、今まで抜いてきた選手達に抜かれまくるのは、そりゃー悲しいものでございます。それでも6時間を切るには、控えめに体力温存をしている余裕はありません。 初山別の丘を越えれば、もうすぐ平地区間。脚の疲労も蓄積されてきて、気を緩めると直ぐにまったりとしてしまいます。ここでアベレージをいかに下げないかが重要。 天塩町(てしお)に入る頃、追い風は斜めの向かい風となる。2年前、強烈な向かい風により時速17kmで必死に走った、天塩町北外れの巨大風車地帯。この区間も、今年は時速30km程度で走れるのは幸い。海岸沿いの道道106号を内陸方向に進路をとると、そこは間もなく「サロベツ湿原」。 近年、農業用水路整備が進み、湿原に流入する水量が不足。湿原の乾燥化が問題となっています。乾燥化が続くと、湿原は徐々に後退し、大切な湿地の自然環境が失われることになります。いつまでも、すばらしい自然の中でオロロントライアスロンが続いていくように切に思うのでございます。 サロベツ湿原を通過すると、コース北端の幌延町役場(160km)までもう少し。ここにもエイドステーションが設置されていますが、すべてのエイドステーションでは、ライダーに素早く、必要なものを渡せるように、百メートルほど手前で「ほしいもの」を尋ねられる。係員は、メガホンで声リレーや、無線を使いエイドステーションの係員に伝えます。エイドステーションでは、手前で伝えた物が、素早く受け取れるという仕組みになっている。なんともありがたいではないか。大会ボランティアに頭が下がる思いだ。
concentrate集中 役場前のロータリーを通過したら今度は進路を一路、南にとる。バイクゴールは、先ほど通過してきた遠別町道の駅「富士見」。どうやら、6間切りは不可能な平均速度まで、アベレージは下がってしまった。ここで、集中力を切らしてはダメだ。目標が達成できないとわかった瞬間に今までの頑張りを捨てる気持ちにはなれなかった。全員がイコールコンディションでレースをしているのだ。6時間を切れなくても、諦めなければきっと良い結果に繋がると気持ちを奮い立たせた。言うは安し、思うのも安し、でも行うは超難し。裏付けされた体力がなければ、どんなに「根性!」と叫んでも、体はついて来ません。 「まだ脚は動く!」気持ちと体を上手くリンクした。
「心・技・体」 好きな言葉に「心・技・体」という言葉があります。基本となるのは体(体力)。体力が足りず、バテてしまっては、技どころではない。技(スキル)がなければ、体力だけでは効率が悪い。体力がある者が強いなら、プロレスラーの様な力持ちが全てのスポーツの頂点ということになるが、そうではない。そして、最後には心(精神力)の強いものが生き残る。この全てがなければ、限界を越える持久系スポーツでは良い結果は生まれない。これはトップ選手だけでなく、完走をめざす全ての人に言えると思っています。 走っても追いつけない、先にスイムを終了した選手達。いったい彼らはどれくらいの速度域で走っているのだろうか。自分の練習は、まだまだだったのか。自問自答の時間が続く。彼等に追いつくべく、最後のバイクパートをぶっ飛ばします。追い風に乗ってきた車体は、時速40kmを越えることも多くなってきた!
怒涛の206人抜き 道の駅「富士見」に入り、停車位置にて降車し、そのままバイクを押して計測マットを通過。今回一つの目標とした、ゼッケン8村上純子選手(玄米酵素)に追いつく事はなかった。6時間27分10秒、57位でゴール。1位のスミス・スチュワートは5時間13分でバイクを終了。ゴール後のコメントで、「今年はバイクで潰れ、ランでは脚が何度も止まりそうになった」と語っている。スミスが限界を超えて出したこの記録は、しばらくは更新されることはないだろう。それくらい偉大な記録だ。スイムパートでのリタイア者は0名だったが、このバイクパートでは14名がリタイアとなった。ちなみに、トップのスミスは1人も抜いていないわけで・・・
計測マットを通過すると、大会ボランティアがバイクを引き受けてくれ、代わりにラン用の荷物の入ったトランジット・バッグが渡されます。このバッグは、早朝に受付で渡しておいた物で、ランシューズや、サプリメント、着替えなどを入れてある。バイクゴール200m手前で通過者をチェックし、無線で連絡を入れて滞りの無い様にバッグを準備してくれているのです。 バッグを持って更衣室へと急ぐ。昨年までは、制限時間に近いタイムでバイクを終了していたため、更衣室は野戦病院の様相。諦めモードの人もいて「この空気に呑まれてはいけない」という感じでしたが、今年のタイムでバイクゴールをすると、「これからランで稼ぐ!」という力を残した選手が多く、皆トランジットが素早い。例年は日没後の気温低下を予想してTシャツに着替えることが多いが、今年は歩かない覚悟を決めて、そのままノースリーブのトライウェアでランをスタートした。北海道は日没後、ぐっと気温が下がり、歩く選手には寒い。消耗し切った身体に、この寒さはかなりこたえるのでございます。
photo4: 道の駅「富士見」をスタート。私です。(写真提供:けこちゃん)
ゴールまでの道のり 1ヶ月前に出場したビホロ100kmデュアスロンでは、バイク後のランで脚が動かなかった。今回はビホロの倍以上の距離をレースペースでバイクを漕いでいるので、ランの脚が残っているのか不安だった。しかし予想に反して脚は動く。毎年のことだが、どんなにバイクで潰れても、ランの開始直後は意外に脚が軽いものなのだと改めて思った。しかし、辛いのはこれから。10km過ぎから始まる、先ほどバイクで通過してきた、初山別からの丘。フルマラソンでも、こんなにキツイコースは少ないと思う。スイム・バイクの後にしては、なかなかのデザートでございます。それでも、あと41.8km走れば終わりなんだという感覚になるから不思議。多くの選手がそのような感覚になるという。感覚というよりは錯覚じゃないの!? ランパートに入ってからは、抜かれることはあっても、抜く事は皆無。抜けるのは、歩いている選手のみ。それでも、ほとんど歩かずに走れるのは予想外。ゆっくりでも走るのと、歩くのでは雲泥の差。このまま行けば、明るいうちにゴールできるかもしれない。
photo5: 初山別の丘越え。バイクの後にこの丘はかなり堪えます。 走らない人に、「なんで、そんなに辛いことするの?」とか「ランナーってマゾなの?」と言われる。なぜ自分は走っているのだろうか? 普段の生活では程遠い、非現実的なまでの過酷な状況に自分をトランスさせ、目標を達成したときの喜びが大きいからではないだろうか。長時間競技を続ける、持久系のアスリートには、それぞれに哲学が存在していると思います。競技時間が長い分「葛藤」というプロセスを経て客観的に自分を見つめることができるからではないでしょうか。古今を問わず自分を見つめることは、簡単なことではないから、荒行や禅といった修行が古くからあるのでは。マラソンもトライアスロンも同じだと僕は思う。「深い!深すぎるっ!!」・・・って、自分で言うな!。 羽幌町(はぼろ)に近づく頃、日没が迫ってきた。どうやら今年も明るいうちにゴールは出来ないようだ。それでも、この時間帯に羽幌町近くまで辿り着いているなんて奇跡かもしれない。 オロロンの日本海に沈む夕日は最高に美しい。これを見ないなんて損!損!
35kmの壁 マラソンでは「35kmの壁」ということが言われます。35km地点を越えると、急激な失速をすることが多いからです。無理なペース配分や、エネルギー切れなどが理由とされていますが、オロロンでは35kmの壁にぶち当たる人は少ない。すでに幾度も壁を越えているからだろう。そして「セカンドウインド」と言われる、いわゆる「生き返り」だが、オロロンのようなロングのトライアスロンや、100kmに達するウルトラマラソンでは決して珍しくはありません。漫画やスポーツ雑誌などでは、一部のトップアスリートのみだけが踏み入ることの出来る領域の様に美化されていますが、そんなことは無い。これだけ長い時間、競技レベルで運動を続けると、多かれ少なかれ、体力・気力の山と谷を越えることになります。この山や谷を越えた後の身体の軽快感がセカンドウインド、またはそれに近いものだと思います。セカンドウインドの理由は、運動生理学的には、耐乳酸性能の向上・改善等が言われているが、そのスイッチになるものは気力。「精根尽き果てる」という表現があるように、完全に潰れてしまっては、スイッチは永遠に入りません。このスイッチは脳内分泌物に関わっているが、ここでは割愛させてください。ゴール前になると、多くの選手がラストスパートできるのも、この脳内物質に深く関係している。(間違っていたらゴメンなさい)
残り11km、エネルギー不足で、急激にお腹が空いてきた。どんなに補給を心がけても、エネルギーの枯渇傾向は避けられません。体脂肪が燃えれば大丈夫とか、そういう話ではない。どんなに体脂肪が上手く燃焼できる代謝システムが出来上がっていても、ある運動強度を超えれば、グリコーゲンの消費割合が多くなり、エネルギーの枯渇は避けられない。それ以上に、長時間にわたり胃腸が揺さぶられることや、水分の大量補給による胃の粘膜のダメージから、食べ物を受け付けにくくなっていることが大きな原因。中には、食べられなくなって自滅する人もいる。とにかくハンガーノック(低血糖に落ち入り、動けなくなってしまう事)だけは、避けたい。 有明エイドは、通常水だけの簡易エイドステーションだが、運良くチョコレートが置いてあった。すぐにエネルギーとなる単糖でできているチョコレートに救われた。 とうとうラスト10kmまで来た。昨年は「真っ暗だったよな〜」と感慨にふける。疲れはあっても、脚・足の痛みは無い。ラスト10km地点では、ゴールとなる羽幌町入り口の巨大風車が地平線の彼方に小さく見える。この景色を見てしまうと遠大に感じる距離。 「それでも、何度も地平線を越えてきたじゃないか!走れば、必ず近づいてくる。」 最後の力を振り絞りラストスパートに入る。運良く体調は上向き。1キロ6分にペースアップ。さっきまでは抜かれる一方だったのに、このペースだと前の選手が近づいてくる。
世界の中心?いや羽幌の中心で愛を叫ぶ
先ほど食べたのに何分かすると、また空腹感が顔を出す。築別エイドでは、おにぎりをもらう。みそ汁もあります。みそ汁が出るなんてなかなかでしょ。これも完走組みが20時台になるオロロントライアスロンならでは。いよいよ、オロロンもクライマックス。 「僕らは自分の力だけで走っているんじゃない。走らせて貰っているんだ。」 日中暑く日没後はぐっと寒い中、1日中パイプ椅子で見守ってくれたボランティアのみなさん、おにぎりを詰まらせながら、水で流し込む僕の姿を心配げに見ていたボランティアの中学生。 「あんがとね!朝早くから、こんなに夜遅くまで。」 この感謝の気持ちは、かならずゴールすることで恩返しする。全力を出し切ることで恩返しする! なんて、一人で勝手に熱く燃え上がっている間に、遥か彼方に見えていた風車も、いよいよその姿を巨大にした。この丘を下って羽幌町内に入れば、町民の熱い応援が僕を後押ししてくれる。そこまでの辛抱。 ここからは、「気合だー」とアニマル浜口バリの気合を入れて、歩きたくなる心を必死に抑え前に進む。 ここ羽幌町をバイクで通過したのは午前中。そして19時、僕は帰ってきた。 「お帰りなさい」 ここでは、こういう応援なのだ。 「帰ってきたよー」 オロロンを走って、一番良かったと思えるとき。泣けてくるとき。 羽幌サンセットホテルを左折すれば、残り約800mの直線。町内や選手の応援者が迎える花道となる。 名物おやじ、みのや氏のゴール実況が熱くこだまする。 最高だぜ!みのやさん。 全力で駆け抜けた・・・ (一緒にゴールしてくれた、けこちゃんありがとうございました。)
悲願ならず。それでも完全燃焼! ランパート5時間3分56秒(142位)、トータルタイム12時間18分52秒(総合104位)。 244.7kmの冒険は幕を閉じた。昨年より約1時間半の短縮、順位で100位以上の成績アップを果したが、バイクの6時間切りは達成できなかった。完走者246名、リタイア者53名となった今年のオロロントライアスロン。やっと、上位を目指す土俵に上がった。課題も具体的に見えてきた。しかし、このオロロントライアスロンも参加者の増えない大会の一つに数えられる。開会式では、残すところ2回(第20回大会)をもってその歴史を閉じる可能性が高いとの発表があった。日本一長いという看板がある。素晴らしい運営がある。美しい景色もある。いつまでも続いて欲しい。そう願って止まない。 10年後の8月、僕はまだオロロンを走っているだろうか。 〜完〜
素の完成重量7.5kg(前後輪キシリウム時) フレーム:タイム VXRモジュール メインコンポ:シマノDURACE 9Speed クランク:シマノ10Speed ハンドル:デダ・ニュートン31 DHバー:デダ・クリップブラック ステム:タイム シートピラー:タイム サドル:セレイタリア ホイール前:マヴィック キシリウムSSC-SLクリンチャー ホイール後:スピナジ− REV-X チューブラー タイヤ前:ミシュラン Proレース(7気圧で使用)max8psi タイヤ後:ヴィットリア Evo-KX(12気圧で使用)max14psi ペダル:タイム インパクトマグ メーター:シマノ・フライトデッキ |